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debsy 99ing

「…………泣いているの?」

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「…………泣いているの?」

…………泣いているの?」

 

 砂利を踏む音と共に、真上から聞き覚えのある声が降ってきた。吉田栄太郎だと頭が判別する。

 

 涙を見せてはいけないと、顔を上げる前に両手で目を拭った。

 

……泣いてません」

 

 そう言いながら上げた顔を見て、生髮 吉田は苦笑いをする。目元や鼻は赤くなり、瞳は潤んでいた。

 

 腰に帯びた刀を鞘ごと抜き、その横へ座る。面倒なことには関わりたく無い方だが、気になって仕方がなかった。

 

 

「そういう事にしてあげる。……ここ、座るね」

 

 

 それだけ言うと、吉田は口を噤んで懐から書物を取り出した。

 

 静かに紙を捲る音と、風に靡いて騒ぐ草の音しか聞こえない。

 

 

──信じられない。泣いている人の横で読書なんて、どういう神経をしているの?

 

 そのように桜花は思ったが、その反面で不思議と心が安らぐ心地になった。あれだけ一人になりたいと願ったというのに。

──何だろう。前にもこんな穏やかな心地を感じた気がする。何というか、安心する。

 

 

 それは先日偶然出会った時でも、手を引かれて新撰組から逃げた時でも無く、それよりもずっとずっと昔のもののような気がした。

 

 

 我ながら馬鹿馬鹿しい感覚だと思う。だが、それくらいにが落ち着くのだ。

 

 

 そのようなことを思っていると、目線をそっと桜花へ移した吉田が遠慮がちに口を開く。

 

 

……僕で良かったら、話し聞くよ。話せれば、だけど」

 

 

 その言葉に、膝と膝の間に顔を埋めながら桜花は少しだけ驚いた。何たって、吉田という男はまるで他人に興味が無さそうな雰囲気なのである。

 

 同じ痣を持つ者同士だからなのか、言葉尻からは些かの同情を感じさせた。孤独と言い切るには恵まれた環境に身を置いているが、心が寂しいと叫んでいる今はそれが素直に嬉しいと思う。

 

 

 桜花は顔を上げると、恐る恐る吉田の方を向いた。そしてその真意を確かめるように目を覗く。

 

 

……?」

 

 

──あ。

 

 バッチリと合ったそれは、冬の空気のように凛と澄み、嘘偽りのない冴え冴えとした綺麗なものだった。

 

 自然と鼓動が高鳴り始める。それに気付かないように目を逸らした。

 

 

「どうした?」

 

「いえ……何でも無いです。その、」

 

 

 固く固く結んだ紐を少しずつ解くように、桜花は口を開く。

 

 

……聞いて、くれますか」

 

「うん」

 

 吉田は表紙に留魂録と書かれた書物を閉じると、膝の上に置く。

 

 

…………嫌なことがあってぼんやりしている私が悪かったのですが。使用人としてお世話になっているところで、"お前に足らないのは、

を受け入れる度胸だ"と言われて、切腹を見学させられたんです」

 

 

 腹を切る前の雄叫びと、首を落とした時の血飛沫が瞼の裏にありありと浮かび、思わず言葉を詰まらせた。

 

 それとは反対に、吉田は苦笑いを浮かべている。

 

「何それ。まるで長州の武家教育のようだ」

 

「長州の武家教育……?」

 

「うん。我が藩では、男児の肝試しに罪人の打首を見せる習慣があってね。僕は身分が低いから、遠巻きにしか見たことは無いが……。あれは気持ちの良いものでは無いな」

 

 

 その言葉に、桜花は信じられないと言わんばかりに眉を寄せた。

 

「こ、子どもに見せるのですか?」

 

「そう。確かに度胸は付くけれどね……。刀の恐ろしさと、武士としての責任を幼心に感じたよ。君はどう思った?」

 

 問い掛けられた桜花は戸惑いながらも、思考を巡らせた。

 

「わ……私は……。何も考えられなくなりました。さっきまで生きていた人が、一瞬で……

 

……残念だけど、そんなものだ」

 

「そんなものって……

 

 自身の価値観と、この時代の価値観の違いに目眩がした。

 

 つまり、この時代では死は身近にあるのだ。武士の特権である刀をつかえば、人など簡単に死ぬ。また、油断が命取りになる。

 

──もしかして……。それを胸に刻めと、副長は言いたかったのだろうか。

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