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感慨深げにぼーっとしている桂の視界にきょとんとした三津の顔が映り込んだ。
「小五郎さん,泣きそう。」
目が潤んでますと言われ,咄嗟にそっぽを向いた。
「嫁ちゃん,こんなすぐ泣く男が夫でいいそ?」
「有朋,歳やけぇ仕方ない。」
「君達が私を嫌ってるのは充分分かったから少し黙ってくれないか。」
今日はとことん突っかかってくる二人に桂も流石に怒りを顕にした。
『高杉さんおらんでも賑やかっちゃ賑やかやな。』
三津は三人のじゃれ合いを微笑ましく見ていた。
ただ早く食べてもらわないと自分の仕事が終わらないので,内心は少し苛々しながら笑みを浮かべていた。【生髮療程】激光生髮、生髮帽、生髮針有效治療脫髮? -
翌日,職務へ向かう桂を見送ってから三津は入江と山縣と町へ出掛けた。
「なぁ何で有朋付いて来るそ?何で三津と水入らずで過ごさせてくれんそ?」
折角の二人の時間を邪魔されて入江は珍しく不満を口にした。
「ええやないか。三人の方が楽しいやろが。」
ツンとした態度でそっぽを向いた山縣を見て三津は,あぁ!と手を打った。
「山縣さんは山縣さんで高杉さんおらんから寂しいんですよね。」
屯所に居るのが暇で仕方ないんでしょうとニッと笑った。案外子供だなぁと笑うと,
「そんなんやないっちゃ!嫁ちゃんがそろそろ入江と二人なんも飽きたやろうと思ってやな!」
「待てこら,三津が私に飽きるわけないやろが。」
三津を真ん中にして歩いていたが,入江は咄嗟に山縣の胸ぐらを掴みに行った。
「おうおう,やんのか?槍で受けて立つで?」
「槍でしか勝負出来んそ?ん?ん?」
珍しく喧嘩を買いに行った入江に驚きながらも三津は素早く仲裁に入った。こんな所で騒ぎを起こされては面倒だ。絶対元周の耳に入ると瞬時に考えた。
「ちょっとちょっと,こんなとこで喧嘩やめて?山縣さんなんかの挑発に乗るなんて九一さんらしくない。」
悲しげに眉尻を下げた三津の表情に入江は渋々胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「ごめんごめん,悪ふざけのつもりやったそ。」
入江はへらっと笑って誤魔化した。勘の鋭い三津だから不審がられるかと思ったが,三津はもぉ……と頬を膨らますだけだったからほっと胸を撫で下ろした。
「なぁ嫁ちゃんしれっと俺なんかのって言ったな?な?」
「え?気のせいやないですか?」
三津はにっこり笑ってそんな筈ないと圧をかけた。間違いなく口にしたがこれ以上ややこしくしたくない。
この二人と出掛けたのが間違いだと気付いたのだ。だから早く買い物をして帰りたい。それが三津の本音だ。「さっさと要るもの買って帰りましょう!もしかしたらまた市中視察とか言って元周様がうろついてるかも知れへんし。」
二人を大人しくさせるには効果抜群すぎる名前だった。二人は心底嫌そうな顔をしてから,そうやなと頷いた。
『どんだけ会いたくないんや……。』
確かに厄介な人ではあるが,言うほど悪い人でもないのにと三津は思う。だがそれは三津の扱いがみんなに比べて格段良いからだとは,本人は知らない。
「おっ?あれおうのさんやないか?」
山縣の指差す先には酒屋から出て来たおうのの姿があった。
「あっホンマや!おうのさーん!」
三津は大きく手を振りながら呼び掛けた。すると,それに気付いたおうのが綺麗な身のこなしでお辞儀をした。
その所作を見た三津は笑顔を引き攣らせた。
『人妻になったって言うのにあんな所作の一つや二つも身についてない私って……。』
女としてどうなんだと項垂れた。そしてこちらに駆け寄ってもう一度ぺこりと頭を下げる愛らしさに女たるものを見せ付けられた気がして敗北感を味わった。
三津のそんな心情など他所に,おうのは可愛い声でこんにちはと挨拶をした。
「晋作は?」
そう言えば最近めっきり姿を見んなと入江が首を傾げながら問いかけた。
「高杉様は家でゆっくりなさってますよ〜。」
「それは高杉さんに頼まれて?」
「うん,呑もう。お酒ある。」
文は待ってろと居間を出て酒盛りの準備に行った。
「三津さんがうちらの仲間入りしたのを祝して乾杯。」
お酒はあまり呑みたくないが三人に迎え入れられた事は嬉しくてお酒を口にしてしまった。
無理に呑まされてるんじゃないからちびちびと好きなように呑めてちょっとホッとしている。
目の前で和気あいあいと呑む二人の関係を羨望の眼差しで見つめた。
「いいなぁ幼馴染。」 【生髮療程】激光生髮、生髮帽、生髮針有效治療脫髮? -
少しいい気分になってきた三津がポロッと口にした。
「一緒に塾生の世話しとったけぇ息は合うで。」
それに裏で松下村塾を牛耳っていたのは文だと告げられ失礼ながらなるほどなと納得した。「三津さんはうちらの仲間やけぇ何の遠慮もいらんよ。ここに受け入れる仲間がおるんやから自分を余所者やとか思わんでね?」
文の言葉が心に沁みる。周りが顔見知りばかりの輪の中にぽんっと放り込まれるのはかなり孤独を感じるのだ。
周りは良くしてくれるように思うも,少なからず疎外感を感じる。どこか壁があるのだ。
「ありがとうございます……。ここに来て良かったです……。」
三津は膝の上で手を握りしめて涙を零した。
「呑んで思っとる事吐き出し。」
文はさり気なく酒を勧めた。勿論赤禰直伝の三津専用酒だ。
「ホンマは……凄い寂しい……小五郎さんに必要とされんくなったっ……。今度こそどんな事あっても傍に居ようって決めたのにっ……。
それを小五郎さん喜んでくれんかった……。」
文とすみはやっぱりかと言う顔でお互いに見合った。
「好きやのに何で離れたん?」
すみは優しく問いかけた。
「好きやけど苦しいのが嫌でっ好きでいたくないからっ!私逃げたっ。小五郎さんやり直しに来てくれてた……でもまた傷付くのが嫌で逃げた……。
ホンマは一人にされて堪えれる自信ないのっ!
でも小五郎さん嫌いになる勇気もなくてっそしたら向こうから突き放してくれたから……そのまま離れた方がいいの……ずるずる一緒に居たらまたいっぱい苦しいの……。」
「ごめん……逃げりって言ったん私や……三津さんごめん……。」
自分の助言通り三津は素直に従ったんだ。それが余計に三津を苦しめた。
でも三津は首を横に振った。文のせいじゃないと言う。
「これで良いの。私なんかおらんくても小五郎さんには帰る場所いっぱいある。私の帰れる場所はここしかない……。京には戻られへん……。」
京ではお尋ね者になってしまった。戻った所で安心して暮らせない。
「姉上,ここが姉上の帰る場所です。安心してください。ここに居ていいんですよ。
そのうち入江さんが来てくれます。ずっと傍に居てくれますから大丈夫です。」
フサも優しい声で慰めた。嗚咽する三津の背中を擦る。
「あんな愚兄でも三津さんの役に立つならいくらでも甘えたらいいそ。そしたら兄は悦ぶんやけ。」
「そうよ?三津さんに甘えられるのが入江さんの生き甲斐なんやしその生き甲斐奪わんでやって?」
三津は何度も何度も頷いた。
「ほらほら嫌な事は呑んで寝て忘れり。」
文は酒を追加して三津を寝かしつけた。
「本当にお酒弱いんやねぇ。」
ころんと転がって眠ってしまった三津の寝顔をすみが可愛いなとのぞき込んだ。「うちらが強くなり過ぎたんやろ。あの馬鹿共のせいで。」
文はあの仕打ちは忘れんと高杉の顔を思い浮かべて舌打ちをした。
「三津さん桂様の事忘れられるんやろか。」
「忘れられんと思うわ……。でもそれが辛い思い出のままにならんように前を向かせてあげるのが私の役目やと思う。
桂様との日々があったから今があるって思えるようにしてあげたい。」
「うん,うちも手伝う。やけど本当にうちの愚兄の嫁にしてええと思っちょるん?うちはお勧めせんけど。」
すみは三津ならもっといい人がいるはずと言うが文はふふんと笑った。
「すみちゃんは見ちょらんからね。入江さんが三津さんの前では全く別人みたいになるけん。」
今度三津に会いにこっちへ戻るのを楽しみにしとけと笑った。
断る。桂はそう口にしようとしたかったが,伊藤がそんな事を言ったのが衝撃的ですぐに声に出せなかった。
「三津さんはここにおっても新選組に追われてろくに外も歩けん。
それなら長州で新しい暮らしをさせてやった方がえぇと思う。
奇兵隊の屯所か白石さんの家に置いたらいい。三津さんならすぐに馴染めるやろう。」
高杉の案がかなり具体的で現実味を帯びていて桂は何も言えなかった。
三津は女中の仕事にやり甲斐を感じている。そこにいれば寂しくもないだろうし,今回みたいに体調を崩してもすぐに気付いてもらえる。【生髮療程】激光生髮、生髮帽、生髮針有效治療脫髮? -
それに奇兵隊へ資金支援をしてくれてる白石家なら高杉の頼みとあれば三津一人の世話ぐらい請けてくれるだろう。
高杉は真剣に三津の先を考えている。
このままでは本当に引き離される。三津を連れて行かれる。今までにない焦燥感を味わった。
「……断る。」
「三津さんは武士の嫁には向いちょらん。つてで何処かいい嫁ぎ先も見つけちゃる。」
高杉は繋いだままの手を見つめながらその手に力を込めた。
桂もその繋がれた手に目を落とした。
触らないで欲しい。その手はこの私のモノだ。
「断る……。断るっ!断るっ!!誰であろうと私から三津を遠ざけるのは許さん!!」
声を荒げ拳を畳に打ち付けた。怒りで肩を震わせ鋭い眼光が高杉に向く。
「桂さん落ち着いてくれ。三津さんが起きてしまう。」
桂がこんなに激昂するとは思わず困惑しながら三津と桂の顔を交互に見た。
すると三津は小さな呻き声を上げながらゆっくり目を開けた。
「高杉さん……ずっと繋いどってくれたんですか?」
桂が帰って来てるなんて思いもしない三津には高杉しか見えてなかった。
「三津さん,さっき俊輔も言ったが俺らと長州行こ。向こうで暮らす方が存分に外に出られるし寂しい思いもせん。
桂さんとおるより幸せやと思う。」
桂は自分の存在を無にして三津の答えに神経を集中させた。
「高杉さん,私は小五郎さんの傍から離れませんよ。私は小五郎さんとおるのが幸せです。
そりゃ辛い事もあるけど,それは何処に行っても誰とおってもある事で乗り越えなアカンのですよ。
確かに……小五郎さんと乗り越えなアカン壁は何よりも高いと思います。
でも私逃げたりしませんから。」
だから行かないと微笑んだ。高杉はふぅと息をついて後頭部を乱雑に掻いた。
「席外す……。」
「え?」
ぱっと手を離して立ち上がって出て行く高杉を呆然と見届けるしか出来なかった。
「三津。」
頭上から降り注ぐ甘い声。視線を動かせば目が合った。驚きのあまり声が出なくて口をぱくぱく動かした。
「ただいま。一人にして悪かった。」
桂は瞳を潤ませ三津の顔を覗き込んだ。両手で頬を包み込んでしっかり向き合った。
この声と温もりがどれほどの安心感をくれるだろう。安堵から三津の表情が解れた。
「お帰りなさい。遅いやないですか。」
何て穏やかな顔なんだろう。いつもと違って見えるのは何故なんだろう。三津は右手を持ち上げてその頬に触れた。
「愛してる……。愛してる。愛してる。」
この胸に詰まった想いをどうすれば表せるのか。言葉でも態度でも表しきれない。
足りない。足りない。何もかも足りない。
桂は自分に触れてきた手を掴んで頬をすり寄せた。
『三津は何処へも行かないんだ。どこまでも私を一番に考えて想ってる。離れたりしないんだ。』
さっきの焦燥感が嘘のように消えた。その代わりに溢れ出したこの気持ちの処理の仕方が分からない。
愛してるばかりを繰り返していると三津ははにかんだ顔をした。
「はい,知ってます。」
もう充分伝わってると笑った。すると桂の顔が落ちてきた。三津は咄嗟に左手で桂の口元を押さてた。
「風邪がうつっちゃいます。」
「…………泣いているの?」
砂利を踏む音と共に、真上から聞き覚えのある声が降ってきた。吉田栄太郎だと頭が判別する。
涙を見せてはいけないと、顔を上げる前に両手で目を拭った。
「……泣いてません」
そう言いながら上げた顔を見て、生髮 吉田は苦笑いをする。目元や鼻は赤くなり、瞳は潤んでいた。
腰に帯びた刀を鞘ごと抜き、その横へ座る。面倒なことには関わりたく無い方だが、気になって仕方がなかった。
「そういう事にしてあげる。……ここ、座るね」
それだけ言うと、吉田は口を噤んで懐から書物を取り出した。
静かに紙を捲る音と、風に靡いて騒ぐ草の音しか聞こえない。
──信じられない。泣いている人の横で読書なんて、どういう神経をしているの?
そのように桜花は思ったが、その反面で不思議と心が安らぐ心地になった。あれだけ一人になりたいと願ったというのに。
──何だろう。前にもこんな穏やかな心地を感じた気がする。何というか、安心する。
それは先日偶然出会った時でも、手を引かれて新撰組から逃げた時でも無く、それよりもずっとずっと昔のもののような気がした。
我ながら馬鹿馬鹿しい感覚だと思う。だが、それくらいにが落ち着くのだ。
そのようなことを思っていると、目線をそっと桜花へ移した吉田が遠慮がちに口を開く。
「……僕で良かったら、話し聞くよ。話せれば、だけど」
その言葉に、膝と膝の間に顔を埋めながら桜花は少しだけ驚いた。何たって、吉田という男はまるで他人に興味が無さそうな雰囲気なのである。
同じ痣を持つ者同士だからなのか、言葉尻からは些かの同情を感じさせた。孤独と言い切るには恵まれた環境に身を置いているが、心が寂しいと叫んでいる今はそれが素直に嬉しいと思う。
桜花は顔を上げると、恐る恐る吉田の方を向いた。そしてその真意を確かめるように目を覗く。
「……?」
──あ。
バッチリと合ったそれは、冬の空気のように凛と澄み、嘘偽りのない冴え冴えとした綺麗なものだった。
自然と鼓動が高鳴り始める。それに気付かないように目を逸らした。
「どうした?」
「いえ……何でも無いです。その、」
固く固く結んだ紐を少しずつ解くように、桜花は口を開く。
「……聞いて、くれますか」
「うん」
吉田は表紙に留魂録と書かれた書物を閉じると、膝の上に置く。
「…………嫌なことがあってぼんやりしている私が悪かったのですが。使用人としてお世話になっているところで、"お前に足らないのは、
を受け入れる度胸だ"と言われて、切腹を見学させられたんです」
腹を切る前の雄叫びと、首を落とした時の血飛沫が瞼の裏にありありと浮かび、思わず言葉を詰まらせた。
それとは反対に、吉田は苦笑いを浮かべている。
「何それ。まるで長州の武家教育のようだ」
「長州の武家教育……?」
「うん。我が藩では、男児の肝試しに罪人の打首を見せる習慣があってね。僕は身分が低いから、遠巻きにしか見たことは無いが……。あれは気持ちの良いものでは無いな」
その言葉に、桜花は信じられないと言わんばかりに眉を寄せた。
「こ、子どもに見せるのですか?」
「そう。確かに度胸は付くけれどね……。刀の恐ろしさと、武士としての責任を幼心に感じたよ。君はどう思った?」
問い掛けられた桜花は戸惑いながらも、思考を巡らせた。
「わ……私は……。何も考えられなくなりました。さっきまで生きていた人が、一瞬で……」
「……残念だけど、そんなものだ」
「そんなものって……」
自身の価値観と、この時代の価値観の違いに目眩がした。
つまり、この時代では死は身近にあるのだ。武士の特権である刀をつかえば、人など簡単に死ぬ。また、油断が命取りになる。
──もしかして……。それを胸に刻めと、副長は言いたかったのだろうか。